東京高等裁判所 昭和29年(ネ)1287号 判決
被控訴人が控訴人に対して昭和二十八年六月七日大宮市大字大宮三千六百五十番地宅地三十九坪の地上に鉄筋コンクリート造四階建の病院一棟、総床面積二百十一坪一合六勺四才の建物を請負金額千七百十八万円、支払方法契約成立のとき百五十八万円、基礎工事完了のとき、一階配筋後、二、三階配筋後、工事完了後に各三百九十万円づつ、完成予定日昭和二十九年二月六日、引渡期日竣工検査に合格した日から七日以内と定めて注文し、控訴人がこれを承諾して、請負契約が成立したこと、控訴人が被控訴人主張のように計千二百九十八万円の請負代金の支払を受けたこと控訴人が被控訴人主張の旧病院の建物を金百五十万円と見積つて本件請負代金の一部の代物弁済としたことは当事者間に争のないところである。
しかして原審における債権者(被控訴人)本人尋問の結果並びにこれにより真正に成立したと認める甲第七号証によれば、被控訴人は昭和二十九年二月二十三日控訴会社代表者戸川磯次郎に対し本件建築請負契約解除の意思表示をしたことを認めることができる。被控訴人は、当審においては右契約解除の意思表示は、第一に本件請負契約に定められた約定解除権の行使であると主張している。けれども、もしそうであるならば、被控訴人は控訴人に対し、解除の意思表示にあたつて解除原因を特定し、約定解除権の行使であることを明らかにすることが必要であつて、何の理由も告げずに契約を解除すると告げたのである限り(原審における債権者(被控訴人)本人尋問の結果によるも、具体的に解除原因を告げた事実は認められない)、約定解除権の行使とは認め難く、むしろ、原審において被控訴人が主張し、当審においては被控訴人が第二次的に主張している民法第六百四十一条による解除の意思表示と認むべきものである。しかして、被控訴人が右解除の意思表示をなした時、本件建物が未完成であつたことは当事者間に争なく、かつ本件建築工事はその給付が可分であつて、既に竣功した部分だけでも給付することは当事者双方に利益であることは、本件建築工事の性質上自明のことであるから、このような場合は、既に竣功した部分を除き残余の未完成部分についてのみ請負契約が解除されたものというべきである。
次に、被控訴人は、本件建築物中右契約解除の時竣功していた部分についての対価に相当する部分の請負代金は支払ずみであるから、この部分の所有権は被控訴人にあり、従つて、所有権に基き控訴人に対し竣功部分の建築物の引渡を求める権利があると主張しているので按ずるに、控訴人が既に施行した建築部分に相当する請負代金の支払を受けたことは当時者間に争がないから、このような場合は、請負者たる控訴人は請負契約の解除と同時に、被控訴人に対し竣功部分の引渡をなすべき義務あるものといわなければならない。控訴人は、建築工事施行部分に相当する請負代金の支払を受けたことは認めながら、契約の解除により五百八十九万三千八百二十一円の損害を受けたと主張し、右損害賠償義務と建築物引渡義務とは同時履行の関係にあるものと主張しているけれども、仮に控訴人主張のとおり契約解除によつて控訴人に、何らかの損害が発生したとしても、右損害賠償債務は既に竣功した部分(この部分についての請負契約は解除することができないことは先に説示したとおりである。)の請負契約により発生した報酬金債務とはその発生原因を異にするから、既に竣功した部分の引渡義務と解除による損害賠償債務とは同時履行の関係に立たないものである。従つて控訴人は、被控訴人に対し右損害賠償義務の履行を求め、その履行あるまで本件建築物の引渡を拒む権利がないものといわなければならない。控訴人の主張の同時履行の抗弁は採用し難い。よつて被控訴人が控訴人に対し本件建物の引渡を求める権利あることについては疏明ありというべきである。